新潮 06' 1月号
新潮 06' 1月号
「しょせん書いたものは全部、ブンガクってことだよ。難しいばかりでぜんぜん現実的じゃない。ただ、人間はそういうドリームが必要なんだね。規則もルールもモラルも有機栽培も全部ドリームだしブンガクなんだよ。でも人間はそういうもんがあることにしないと生きていけない」P.243 ・鹿島田真希「ナンバーワン・コンストラクション」(220枚) 開始3ページくらいまでの教授話では「さあ、文芸誌なんか閉じて、森博嗣でも読むか」と萎えさせられるけれど、キャラクタが出そろったあとの鹿島田恋愛論はなかなか。多義的な『死』と『生』を帯びた赤いイメージを接着剤にし、複数の人物がもつれ合いながら物語は進行していく。三島由紀夫賞の「三〇〇〇度の愛」も、おそらく同系色のつくり。作品全体を取りまく陰惨な雰囲気は非常によいですが、とりあえず、この「G戦場ヘブンズドア」みたいなエンドはどうにかしてくれと言いたい。 ・島本理生「大きな熊が来る前に、おやすみ。」(80枚) だめです。ちょっと文章創作をかじった大学生なら書ける内容です。そのレヴェルの作品にも劣る部分がある。幼少時の一つひとつのエピソードが、主人公のバックボーンのショウケースでしかなく、ひどく浅い。個人的体験であるはずなのに、どうにも切迫したムードをともなって書かれているとは言いがたい。とはいえ、小さいながらも、まとまりは感じました。 ・舞城王太郎「ザ・パインハウス・デッド ディスコ探偵水曜日 第2部」(270枚) 素晴らしい!! 「暗闇の中で子供」ばりの極大解釈暗号論をはじめ、奈津川サーガでおなじみの大爆笑カレーことルンババ、一昨年の群像12月号に顔を出した猫猫にゃんにゃんにゃん、舞城王太郎の変名(?)愛媛川十三と、諸作を通じて登場したネタのオールスター構成。『探偵』の時点で危ぶまれていたことだけれど、やっぱりJDCトリビュート(というか「九十九十九」)と化しつつある。だが面白いから何でもいい。第3部で解決する気配がないので、ついに舞城も分冊刊行するのかも? きっと次回の表記は「第4部」なんだろうなあ(「九十九十九」ふうに)。 ・短編小説 奥泉光「神器」は、何だか福井晴敏?な感じではあるけれど、出だしは好調。 辻井喬「余生」のような小説は、何度見ても飽きない。ウェルメイド感は拭えないが。 津島佑子「オオカミ石」。今月最大の駄作。日本昔話feat.作者の個人的怨嗟。くだらない。 町田康「一般の魔力」は一人称から離れ、非常に辛辣な小市民批判をやってのける。 多和田葉子「時差」。とにかく難渋。あたふたしっぱなしで終わった印象。 長野まゆみ「西の谷」も、ぼくは著者のことが嫌いなので、もういいです。 ・エッセイ 松浦寿輝、磯崎新の連載エッセイは、第2回に向けて 古井由吉は、彼らしい ・その他 谷川俊太郎の新作詩は生存報告の意味合いを抜きにしても新鮮。糸山秋子・渡部直己による面談文芸時評は、うまく話が噛み合っておらず、何だかお見合いみたいな話しぶり。その渡部直己「メルトダウンする文学への九通の手紙」をあつかった斉藤美奈子の書評の説き起こしはひどかった(渡部直己=文学界の金八)が、進むにつれて論旨が鋭さを増していく。また、四方田犬彦「ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独」に対する野崎歓の苦笑まじりの称揚も楽しく読ませてもらった。 出来・不出来(それぞれの作品のベクトル?)の差が激しい。 全体としては、ぼちぼち欲求が満たされたかな。
by cruel-world
| 2006-01-14 23:06
| 小説以外の本
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